現代社会における深刻な問題として認識されだした睡眠時無呼吸症候群とはいったいどのような病気なのでしょうか。
深く良質な睡眠を妨げるこの病気の解説はWEB上にて無数に掲載されており、一般的な解説はぜひこちらなどを閲覧してください。
当ホームページではWEB上にて一切紹介されていないであろう2つの不都合な真実を説明してまいりたいと思います。
一般に歯科医院では保険治療として、医療機関にて睡眠ポリグラフ検査の結果、睡眠時無呼吸症候群と診断された方にスリープスプリントを製作し、下顎を約5mmほど前方にだすことで気道を広げ、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対応しております。
医療機関での入院検査が面倒な方の場合、自由診療にてもっと快適なスリープスプリントを製作することも可能です。
一般的にスリープスプリントは約55%の方に有効といわれており、治療効果は下の条件にて左右されるといわれています。
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治療効果が大きい |
治療効果が小さい |
性別 |
女性 |
男性 |
年齢 |
低い |
高い |
肥満度 |
低い |
高い |
頚部周囲長(首の太さ) |
細い |
太い |
下顎の大きさ |
小さい(引っ込んでいる) |
大きい(出ている) |
無呼吸の回数 |
小さい |
大きい |
鼻づまり |
ない |
ある |
顎関節症 |
ない |
ある |
舌の位置 |
正常 |
低位舌 |
軟口蓋 |
短い |
長い |
しかしこれまでスリープスプリントにてどの程度の気道拡大がなされるのか、定量的な証明をした論文や専門書は、国内において私の知る限り1本もありません。
そこで本邦初公開となるスリープスプリントにて約5mm下顎を前方に出した時の気道拡大効果をお見せします。(すべて医院長自身の側貌エックス線です)
さらにスリープスプリントを装着した状態にて顎を引いた時と出した時の2枚の側貌エックス線写真をお見せします。
この4枚の側貌エックス線写真が語る第一の不都合な真実とはスリープスプリントによる効果より、寝ているときの顎の位置の方がはるかに気道への影響が大きいということです。
この真実から教えられることは、まず第一に睡眠時の枕と敷き布団の材質をご自身の体にあったものにすることが非常に大事であるということです。
現在オーダーメイドの枕を製作する整形外科もありますが、茨城県内の方でしたら守谷にあります、まくらぼにてオーダーメイド枕を製作できます。その際枕製作時計測に使用します敷布団も合わせて使用しませんと枕の効果はでませんのでご注意ください。
当医院はまくらぼや京都西川との利益相反関係はありませんので、ご安心ください。
次にいびきを掻く方はよくお口を開いた状態で寝ておりますが、お口を開くと気道はどうなるでしょうか?下の2枚の側貌エックス線をご覧ください。顎を引いても、出しても気道が狭くなっているのがお分りかと思います。
お口を開いた状態にて寝ますとどうしても舌根沈下が起きますので、どのような体位をとりましても、気道狭窄が起こります。花粉症などが原因で鼻閉塞になり就寝中口呼吸になる方がいると思いますが、気道は狭窄しますので大変つらいと思います。
一般にいびきや睡眠時無呼吸の原因として、肥満・アルコール・扁桃肥大・顎が小さい・鼻づまり・加齢などが国内のWEB上では挙げられています。しかし問題の本質はこれらではありません。
睡眠時無呼吸症候群の最大の原因は低位舌並びにそこから引き起こされる口呼吸・過呼吸にあるのではないかと私は感じています。これが第二の不都合な真実です。
低位舌とは、普段リラックス時に舌が上顎口蓋全体に付いていない状態を指し、舌根が後下方へ落ち込み、喉頭蓋(嚥下の際食べ物が気管支にはいりこまないよう蓋となる弁)を倒しこんでいます。
さらに1日のうちで無意識におきている約2,000回といわれる嚥下の際(食事は除く)、舌を前方に突き出しますので(正常な嚥下ができない)、上顎前突(下顎後退症)や下顎前突の原因となり、日中でも口が閉じにくくなってきます。東京の山手線で観察しましても、かなりの方がこれに該当します。
次に私・低位舌を伴う上顎前突(下顎後退症)・低位舌を伴う下顎前突の方の側貌エックス線をご覧ください。お二人とも私と比べて気道が極めて狭くなっているのがご覧になれると思います。
3人の喉頭蓋周囲を拡大して見ます。
私の喉頭蓋は舌との間にスペースが存在し、直立しているのがお分りかと思いますが、他のお二人は舌根が沈下し喉頭蓋を押し倒しているため、両者の境界が判然とせず、倒れこんでいる喉頭蓋と舌根が気道を狭窄しているのがお分かりかと思います。
このような方が仰向けに寝ますと、気道はさらに狭くなるため、この状態で吸気がはいりこんで来たとき気道の前後幅が私の5分の1ほどしかないお二人は、仮に横幅が私と同じ程度だとしても、吸気の流体速度は約5倍となり、この猛烈な速度で入りこんで来た吸気が喉頭蓋を完全に倒しこみ気道の完全閉塞がうまれ、無呼吸状態を生むことにつながるのです。
ですから低位舌を原因とする無呼吸状態は吸気を入れてきた次の瞬間に発生し、呼気を出している時には発生しません。
それではこのような方の睡眠時無呼吸症候群にはどのように対応するのが、現在のベストなのでしょうか。
肥満の解消、アルコール・タバコはやめるにこしたことはありません。鼻疾患のため鼻閉塞をおこす方や、口蓋垂や軟口蓋の垂れ込みが見られる方は、耳鼻科にてレーザーによる小手術も有効です。
ただし低位舌の患者の方の解決策にはなりません。
CPAPは低位舌の方にもある程度有効だと思われますが、約半数の方が睡眠の邪魔になるということで、使用できないようです。
歯科医院にてできる範囲のことについてご説明いたします。
スリープスプリントは解決方法の一つですが、その前に枕と敷き布団を体に合ったものにすることが大事です。
重度の低位舌の方で通常のデザインのスプリントでは喉頭蓋の倒れこみを改善できない方の場合は舌を上方へ押し上げるデザインをスプリントに組み込むことです。
成人患者の場合あくまで対処療法となりますが、子供の場合完全ではありませんが根本的治療法が存在します。
先の下顎前突患者の側貌エックス線と1年後の側貌エックス線をご覧ください。
顎の下の筋肉(舌骨上筋群)がリフトアップし、気道が広がりを見せているのがお分りかと思います。
これは一般の矯正治療とは違い、口腔周囲筋機能訓練を行うことでこのように徐々にではありますが、舌が上顎口蓋に着きだし気道の広がりや鼻閉塞の改善等がおきてきます。
さらにはアデノイドや口蓋扁桃肥大も改善されてきているのが耳鼻科や呼吸器科の医療従事者の方には、この2枚の側貌エックス線から読み取れると思います。
ヨーロッパではこれを専門とする職業も存在します。
もう一つ大切なのが1分間に8~10回の、静かに・やさしく・ゆっくりとした腹式呼吸を口を閉じ鼻で行えるようになることです。
この呼吸法は喘息患者にも大変有効ですので、ぜひ試してみてください。
その際ヨガや丹田呼吸法のような大きく空気を吸い込むような腹式呼吸法はスポーツ選手のような基礎代謝の高い方には有効ですが、無呼吸や喘息を直すための呼吸法としては適していませんのでご注意ください。
またすでに鼻が詰まっている方は、息を吐いた後息を止め鼻を手でつまみ頭を上下に振るような運動を30秒ほど行ってください。これを数回おこなうと鼻が通りますので、そののちこの呼吸法を行ってください。
この呼吸法をマスターすることにより動脈血二酸化炭素分圧が十分上昇し、ヘモグロビンが運んできた酸素を末梢の細胞に効率よく供給できるようになります。(ボーア効果)
それではこの低位舌が起きてしまう最大の原因はなんでしょうか。
ここに第三の不都合な真実を記載しておきます。
それは我が国の母子健康手帳です。
《個体発生は系統発生を再演する。》
これは系統解剖学または系統発生学といわれる学問分野でテーゼともなっている事柄です。
この絵は著者三木成夫氏の(生命とリズム)という本の、表紙をかざる人間の受胎後32日・34日・36日・38日の胎児の顔の成長の変化を、著者自身がスケッチした大変貴重なものです。右上から古代魚のフカ・右下の両生類・左上の爬虫類・最後に左下にようやく哺乳類的顔付きへと変化をしてまいります。地球上の海洋生物である古代魚が陸上動物へと進化した1億数千年の歳月を、われわれ一人一人がわずか1週間の間に母体羊水という海水の中で辿ってくるのです。
羊水にひたっている10月10日の中で、胎児はまさに30億年に及ぶ地球生命進化のドラマを再演して生まれてくるのです。
ところで生まれたばかりの赤ちゃんは歩くことはおろか、立つこともできないことはだれでも理解しています。
筋肉や骨格がまだ地球の重力に対抗できないためです。
系統解剖学において舌は手足と同じ体壁系の筋肉であるため、その機能はまだ未熟なままです。
この舌の機能を十分に引き出す大切な営みがお乳を吸うという吸綴行為なのです。
吸綴を十分おこなうことで、上顎口蓋が横に広がり、口蓋全体が舌に吸われて下がってまいります。このことで口蓋の上にある鼻腔は横縦に広がりを見せるのです。さらに舌や舌骨上筋群がリフトアップし、舌骨を前上方へ引き上げますので喉頭蓋付近の気道を広げることになります。
さらに口腔周囲筋と調和した正常な嚥下活動を身に着ける大切なステップであり、これにより上顎下顎のバランスのとれた成長ときれいな歯並びを手に入れることができます。良質な呼吸様式・正常な嚥下活動・綺麗な歯並びは相互補完的関係にあり、これらを手に入れるための大切な第一歩がこの吸綴行為なのです。
生命の進化の中で、上顎・下顎は古代魚の一番目と二番目のエラがそれぞれ進化したものであります。エラというのは古代魚の呼吸を司る臓器でありますが、そこから進化した上顎下顎の正常な成長も、呼吸様式と大変密接な関係にあるのです。
我が国の母子健康手帳は残念ながら、母乳育児をおもに栄養の面からしか考えていないため、母乳期間が短く舌や舌骨上筋群が未熟なまま母乳をやめ離乳食を始めてしまうため、
低位舌や口呼吸の子供が多発しているのです。これはあたかも生まれたばかりの赤ちゃんを無理に立たせようとしていることと同じことなのです。
鼻づまり・アデノイド・扁桃腺肥大・いびき・睡眠時無呼吸症候群・歯列不正・上顎前突・下顎前突・肩こり・顎関節症などの疾患がこれから誘発されます。
口腔周囲筋機能訓練は舌を中心とした筋肉の失われた機能を取り戻す訓練ではありますが、やはり限界があります。
われわれホモサピエンスは哺乳動物なのですから、赤ちゃんに十分な哺乳訓練をさせることが、何より大切なのです。
ここから中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)について、日本ではまだあまり知られていない論争をご紹介します。(2016年現在)
ジェレミノー博士
そもそも睡眠時無呼吸症候群(SAS)の概念を提唱したのはスタンフォード大学のジェレミノー博士ですが、このスタンフォード大学はレム・ノンレム睡眠の研究で大変有名な大学で、睡眠研究では世界№1の研究所です。ただし歯学部はありません。
Roger PRICE博士
https://www.linkedin.com/in/rogerlprice
一方今回ご紹介する Roger PRICE博士はクイーンランド大学出身の呼吸生理学者で矯正歯科医です。日本の大学病院の睡眠外来の担当医師はほとんどの方がスタンフォード大学に留学していますので、CSAを睡眠障害と考えています。日本のWEB上の解説もすべてこの考えに沿った内容になっています。一方Roger PRICE博士は呼吸障害ととらえており、私もこの考えを支持しています。そこでまずホモサピエンスの呼吸器官がどのような進化を辿ってきたのか、系統解剖学の世界から眺めてみます。
これはヤツメウナギといわれる古代魚に近い魚ですが、一つの目と7つの鰓孔(えらあな)の合計8つが目のように見られるためこの名があります。この鰓孔は腸管に直接開いた穴であり、この周りの鰓弓筋を含めて心臓と同じ内臓系の筋肉のため、非常に安定した呼吸が可能なのです。ホモサピエンではこの1番目と2番目の鰓が上顎下顎へと進化し、残りの鰓は退化して首回りを作り上げます。1番目の鰓孔は耳穴として残りますが、後の鰓孔はすべてなくなります。
また両生類の首の筋肉、蛙ですと首の袋の部分(鳴き袋)は体の中を肺の下まで下降し横隔膜へと変化します。そのため横隔膜は肺の下にあるにもかかわらず頚神経が支配しています。
肺というのはもともと腸管の薄い壁がゴム風船のように膨らむことで進化したものですが、肺自身は鰓孔のような自発呼吸はできないため誰かに助けをかりなければならない運命にありました。ところが鰓孔や鰓弓筋といわれる内臓系の呼吸筋はすべて咀嚼筋・表情筋・発声筋などの体壁系の筋肉へと変化してしまい、ホモサピエンスは安定した内臓系の呼吸筋が全くなくなっているのです。横隔膜や肋間筋も含めて呼吸を助ける筋肉すべてが、疲労しやすい体壁系の筋肉なのです。
さらに覚醒時の呼吸コントロールには大脳皮質が関与しており、息を止めたり、息をのむことが多くなり、息抜きは仕事の合間にしかできないのが現状です。
低位舌による口呼吸を含めて、現代人の呼吸の質は極めて悪い状態にあり、浅くて速い呼吸を行うことで体の中の二酸化炭素分圧が上がらず、ボーア効果の効きにくい体になっているのです。逆に横隔膜を使う深くゆっくりした呼吸は、リンパの流れをよくするため免疫機能が向上し、アデノイドや口蓋扁桃肥大の改善に役立ちます。さらに腸の蠕動運動を助けますので消化器系の働きもよくなります。
本来睡眠時の呼吸は延髄が血中の二酸化炭素分圧を感知して行うため安定した呼吸のはずですが、このように覚醒時の呼吸をつづけることで二酸化炭素分圧が上がらないため、延髄が本来の呼吸にもどそうとして、二酸化炭素分圧が40mmHgにまで上昇するよう呼吸を止めていると考えられるのです。
そこでこのような方にぜひ行ってほしいのはお口を閉じ、静かに・やさしく・ゆっくりとした腹式呼吸を取り戻すということです。
具体的には1分間で8~10回の呼吸のリズムで、お臍の下に両手をあて横隔膜を使用した腹式呼吸になっていることを確認しながら、ご自身が波内際で潮騒の音を聞いているイメージをもってリラックスしておこなってください。
この練習をお休み前におこないそのまま就寝してみてください。
この呼吸法を体得するだけでも中枢性の無呼吸に効果が見られると思いますが、もう一つ就寝中の動脈内二酸化炭素分圧を上げる有効な方法が基礎代謝を上げるということです。
腹式呼吸そのものが基礎代謝を向上させますが、今はやりの筋膜リリースのような体を柔らかくするストレッチや、猫背の方は肩甲骨周りの筋肉を柔らかくすることです。
腹式呼吸法のような即効性はありませんが、いったん基礎代謝が上がれば持続的効果が期待できます。
Roger PRICE博士の講演が英語ではありますが、聴講することができます。興味のある方は上の写真をクリックして聴講してください。左の講演は開始5分ごろから始まります。